02


店の奥から、向こうからは見えない位置でいつきと様子を見守っていれば不良三人組の内一人は何かを探すようにきょろきょろと首を動かす。

その目が、いつきと店番を変わった仲間に辿り着くとあからさまにがっかりした顔になる。

(あれ…?これはもしかして)

ある種の予感を抱きながら、咲夜は動き出した政宗を見つめた。

「Hey、てめぇら。この店に何の用だ?」

唐突に声をかけられた三人組はあ゛ぁ?と唸るような低い声を出し、振り返る。

当然そんなことで政宗が怯むわけもなく、続けて言った。

「何を買うでもなく、長時間、それも連日居座られちゃ迷惑なんだよ。用がねぇなら帰れ」

ストレートに切り込む政宗に三人組の目付きが変わる。

「ンだと?それが客に対する態度かよ?」

「そうそう、俺たちゃお客様だぜ?」

優位に立っているつもりなのか二人は政宗に言い返す。

そして、残りの一人はというと…

「てめぇ、いつきちゃんの何だ…?はっ、まさか!か、か、彼……い、いいやそんなの俺は認めねぇぞ!」

ギッと政宗を睨み付け叫んだ。

「ah…?」

「俺はてめぇなんかぜってぇ認めねぇからな!」

ブンッと、意味が分からない言葉と共に繰り出された拳を政宗はとりあえずかわす。

「てめぇ見たいな奴がいつきちゃんを幸せに出来るわけねぇ!」

「ah-、…そういうことか」

やっぱり、と咲夜が心の中で思うと同時に政宗もこの男が連日何をしに来たのか理解した。

大方他の二人は付き添いか何かか。

いつきちゃんは可愛いからなぁ。

隣で心配そうに政宗達を見つめるいつきの頭をよしよしと優しく撫でた。

「咲夜姉ちゃん…?」

「ん、大丈夫だよ」

いきなり暴れだした男に一緒にいた仲間もこれには慌てたようで、

「馬鹿っ!お前、いつきちゃんの店を壊す気か!」

「ンな事したら確実に嫌われっぞ!」

仲間に肩を掴まれた男ははっと我に返り、政宗に向けた拳を下ろした。

しかし、怒りがおさまったわけではない様で政宗を睨み付けたまま言う。

「〜っ、おいてめぇ!表に出ろ!」

「ha、この俺に喧嘩を売ろうってか?いいぜ、高く買ってやる」

ニィと口端を吊り上げ応えた政宗は、店を出て行く三人の後に続いて外へ出る。

…政宗ってば楽しそう。こんなとこからじゃなくて隣で見たかったな。

ギラリと光る、好戦的なその瞳が咲夜は好きだった。

何者にも屈することのない、強い意思と光を灯した薄茶の瞳。その姿はまさに気高き孤高の竜。

はぁ、政宗の瞳ってすっごく綺麗なんだよね。それが見れないなんてもったいない。

咲夜はいつきの手を引き、外が見える場所に移動する。

外ではもう、闘いが始まっていた。

男の拳は空を切り、政宗のローキックが決まる。

「おおっ!流石ッス筆頭ー!!」

「筆頭ー!!」

と、外を見れば待機していたはずの仲間達がいつの間にか移動し、政宗達を中心に円を描くように集まり、声を上げていた。

「待機命令はどうしたのよ皆……まぁ、しょうがないか」

その様子に咲夜は自分もかとふっと笑みを溢し、皆と同じ様に円の中心に視線を投げた。

「がはっ…!」

何だコイツ、つえぇ!
それに今、アイツ等“筆頭”って…。まさかっ!?

「おい!やべぇぞ、こいつ…」

「あっ、あぁ。店ン中じゃ気付かなかったけど…」

尻餅をついた男の後ろで男の仲間が口元を引き吊らせ青ざめて言う。

“蒼い集団”“筆頭”“隻眼”

そして何よりここは北口商店街。

さぁ、一体ここは誰の縄張りだった?

「hun、大口を叩いた割りには大したことねぇな」

ジロリと、威圧感を伴った鋭い隻眼が自分達を見下ろす。

「――っ」

そう、コイツは複数存在するカラーギャングの内の一つ。Blue Dragonの独眼竜、伊達 政宗だ。

勝てるはずがない!

諦めかけた二人をよそに尻餅をついて、政宗にやられていた男が拳を握って立ち上がる。

「うるせぇ!俺はまだ負けてねぇ!」

そして政宗に正面から殴りかかった。

「おいっ、止めろ馬鹿!」

「直人!」

正面から迫った拳を政宗は余裕の表情で右手を開いて受け止め、直人と呼ばれた目の前の男の足を払う。

体勢を崩させ、掴んだ左手を捻り上げ地面へと押さえつけた。

「――っぐぅ!」

「「直人っ!!」」

駆け寄ろうとした直人の仲間を政宗は一睨みで黙らせ、呻く直人に話しかける。

「個人的にはお前みたいな奴は嫌いじゃねぇ。けどな、いつきを始め商店街の連中が迷惑してんだ。アイツに嫌われたくなきゃ大人しく引け」

「い、いつきちゃんが…?」

政宗の言葉に直人はショックを受けたようで大人しくなる。

「そんな…。俺はただ、いつきちゃんに会いたくて…」

本当に気付いていなかったのか、直人は愕然と呟いた。



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